キリスト昇架

ピーテル・パウル・ルーベンス「キリスト昇架」(1611年)
(三連祭壇画の中央部分) 
Pieter Paul Rubens"The Elevation of the Cross"
アントワープ大聖堂

初めてこの絵を画集で見たとき、そのあまりの迫力に圧倒された。ダイナミックな構図、強烈な光と影、青・赤・黒の色使い、たくましい人物、それらすべてが圧倒的なパワーで迫ってきたのである。「感じるままに」という聞こえのよい言葉で適当に写真を撮っていた私は、この絵を見て以来構図を意識して撮影するようになった。また縦4.6メートルというサイズは、目の前にすればどれほどの迫力があるだろうと思わせる。大聖堂にはこの絵が左に掲げられ、右にはこの絵と対になる「キリスト降架」が、正面には「聖母被昇天」がある。

さて、作者ルーベンス(1577〜1640年)はアントワープ(フランドル地方、現在のベルギー)を主な根拠とし、宮廷画家・外交官として活躍した。画家としては自らの工房を持ち1500点もの作品を手がけ、外交官としてはイギリス・スペインの和議の成功によりそれぞれの王から騎士の位を授けられている。またスペインで活躍したベラスケスと同時代の人である。
絵だけでも圧倒的であるのだが、人生においてもこれまた圧倒的な成功を収めており、私としてはもはや言葉も出ないほどである。それほどの成功を収めながらも彼は優れた人格者であったという。まさに脱帽である。

絵について説明をするならば、イタリア滞在中に古代彫刻やルネサンスから学んだたくましい人物像や人物のポーズがまず挙げられるだろう。また、光と影の描写はカラヴァッジオの影響が感じられる。さらに細部の丹念な描写はフランドルの伝統を思わせる。当時持ち合わせることが可能であったあらゆる知識や技術を融合して生み出された作品であると言えるだろう。すべてを自らが描くわけでなく工房の画家に手伝わせたことも、その知識と画力、構想力を考えれば納得がいく。彼の創造力を存分に発揮するためには他人の手を借りなければ間に合わなかったのである。現代に生まれればすばらしい映画監督になったかもしれない。

ところでフランドル、英語読みでフランダースと言えば親近感を感じる人も多いのではないだろうか。「フランダースの犬」で主人公ネロが最期に見たのがこの絵である。また大聖堂の正面にある「聖母被昇天」は、ネロが初めて出会った絵だ。アニメーションにおいて彼が天に召されるシーンで画中の天使が彼の周りを舞う演出がある。まさに母のもとへ(安らぎの場所へ)旅立つかのような場面だったと記憶している。
なお、「フランダースの犬」という物語はイギリス人作家によるものであり、内容が悲劇ということもあってかご当地ではさほど知られていなかったそうだ。アニメを見た日本人がたくさん訪れたために注目されるようになったという。興味のある方は「フランダースの犬」「アントワープ大聖堂」などをキーワードにして調べていただきたい。アニメだけでなく現地を訪れた人のページもあり、実際に訪れた気分にさせてくれるだろう。なお1998年にはハリウッドで映画化されたそうだ。なんとマルチエンディングでハッピーエンドもあるとのこと。アメリカ人らしいと苦笑した。

関連リンク
Web Gallery of Art-"Assumption of the Virgin"(聖母被昇天)
Web Gallery of Art-Altarpieces in Antwerp Cathedral
フランダースの犬(バンダイビジュアル)

The Elevation of the Cross 
1610-1611,Oil on canvas,Central panel of triptych altarpiece, 462 x 341 cm
Cathedral,Antwerp

「聖書」(前のページ)へ


「想像空間」のホームへ
© 2002 hosizora.All rights reserved.