クロード・モネ「睡蓮」(1906年) 
Monet,Claude"Water Lilies"
シカゴ美術館蔵

2002年4月、千葉県佐倉市にある川村記念美術館で開催されていた「モネ展」を観に行ってきた。「睡蓮」を主とした30数点に及ぶ絵は、画集等で目にしていたぼんやりしたイメージとは違い、意外に力強い筆遣いで描かれていて驚いた。「筆触分割」という言葉は知っていたのだが、モネの絵を前にしてようやく「印象派は見たままに感覚的に絵の具を塗ったもの」という先入観を脱することができたのであった。

ブーダンやマネに大きな影響を受けたモネは、戸外に出て対象を前にして描くうちに色の絶え間ない変化に魅せられていった。朝の光は青く、午後には黄ばみ、夕方には赤くなる。ただし、時間によって色彩が変化すること自体は画家であれば誰もが知っていることだろう。たとえば17世紀にローマで活躍したクロード・ロランは戸外のスケッチを通じて光の描写を追究し、朝夕の光を「理想風景」という形に普遍化している。つまり、「朝の光とはどのようなものか、夕方の光とは」をいわば定義してみせている。

しかしモネは変化にこだわった。これは社会的な背景の影響が大きいのではないだろうか。
確かにチューブ絵の具が開発されたことやマネの絵画観の革新性に影響を受けたことも大きな要因であろう。しかし当時の社会そのものが産業や技術の発達によってそれまでにないほど激しく変化していたことを考えれば、モネが一瞬一瞬に価値を見出したのはごく自然なことだと思われるのである。

モネは戸外に光を捕まえに行った。網膜に映った一瞬を自分がどう認識したか、それを表現するために筆触分割という技法も生み出した。
確かな理論に基づく迷いのない力強い筆遣いが、「印象派」という言葉のはかないイメージとは裏腹にモネの「私の見た一瞬が確かにここにある」という声を発しているように思えるのである。


関連リンク
Mark Harden's Artchive-Claude Monet

Water Lilies 
1906,Oil on canvas,87.6 x 92.7 cm
The Art Institute of Chicago

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