クロード・ロラン「パリスの審判」(1645-1646年) 
Claude Lorrain"The Judgement of Paris"
ワシントン・ナショナルギャラリー蔵

なんとも美しい絵である。夕暮れのひと時、穏やかな光と静かに流れる風が、絵を見ている自分の周りまでも包み込んでくるようだ。

作者クロード・ロランは1604年頃フランス北部ロレーヌ公国で生まれ、23歳から1682年に没するまでローマで過ごした人である。朝夕の光の描写にすぐれ、荘厳さと牧歌的雰囲気を併せ持ったその絵は理想風景と呼ばれている。

彼の絵は当時の王侯貴族に絶賛された。贋作も出回り、その対策のために彼は制作した絵のデッサンを本にして残している(その本は「リベル・ウェリタティス(真実の書)」と呼ばれている)。
贋作が作られたことは人気の高さとともにそれだけ「クロードらしさ」がはっきりしていたことを示している。
以下の2点の絵を見てほしい。

アイネイアスのいるデロス島の風景
シバの女王の船出

クロードはこの2つの構図を多数描いている。光は空間の広がりを、古代建築は遥かな時の流れを、神話や聖書に題材を求めた登場人物は牧歌的な雰囲気を演出している。さらに彼は自然をよく観察し、丹念なスケッチを重ねた。そのスケッチをもとに彼だけの風景を創造していった。
一見してクロードの作品と判る構図と他の追随を許さない美しい光の描写は、まさにブランドそのものだったのではないだろうか。

ところで、始めに紹介した「パリスの審判」にはクロードの絵の重要な要素である古代建築はないが、私はこの絵のほうが好きだ。もちろん上に例として挙げた2点もすばらしいのだが、長く見ていると少々整然としすぎているように思われてきて落ち着かないのである。その感覚は例えばベルサイユ宮殿の西洋式庭園を見たときのものに似ている(といっても写真でしか見たことはないが)。庭園の木を円錐形に刈り込んでしまうのと同じで、「自然」を秩序のもとにおくために、描く部品全てに意味を与え、構成も十分に計算するというのはいかにも西洋的な発想に思われる。東洋の一国に生まれ育った私にとって自然は畏敬の対象であって征服のそれではないのである。

そのようなわけで、ここでは光の描写の美しさを特に強く感じた作品として「パリスの審判」を選んでみた。あなたならどの絵が気に入るだろうか。同時期の画家としてニコラ・プッサンがいる。この人はクロードに比べ、より理性的だ。「アルカディアの牧人たち」などで知られている。いろいろと見比べてみてはいかがだろうか。

関連リンク
Art cyclopedia-Claude Lorrain

Art cyclopedia-Nicolas Poussin

The Judgement of Paris 
1645-1646,Oil on canvas,112.3x149.5 cm
National Gallery of Art at Washington D.C.

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