ラファエロ・サンティ「大公の聖母」(1505年) 
Raffaello Santi"Madonna del Granduca"
ピッティ宮パラティーナ美術館蔵

闇に浮かび上がる聖母子像。その穏やかで優しい表情は、見つめていると時の過ぎるのを忘れるほどである。

聖母子像のルーツは、一説には古代宗教によく見られる母性信仰をキリスト教に取り込んだものらしい。また、神の子を産んだ母としてのマリアへの信仰によるものとも言われている。
いずれにしてもキリスト教とは切り離せないものではあるのだが、このサイトではあえて一般の絵に分類してみた。それは、ラファエロの描いたものが信仰よりも母性にあると思われるからである。

ラファエロを指す言葉として、「マザコン」ということが言われる。彼が9歳のときに母親をなくしたことを思えば一面ではそうかもしれない。しかしただのマザコンであったならば、当時も、そして現在も彼の聖母子像が人々の心を捉えることはあっただろうか。

芸術家(といっても現代とはその地位も意味も違うのだが)としてのラファエロは、師のペルジーノを始め、レオナルドやミケランジェロなどさまざまな人々から影響を受けた。その旺盛な吸収力と努力の結果は特にローマ移住後(1508年以降)の壁画装飾や祭壇画などに現れている。

旺盛な吸収力と努力の結果という点は聖母子像にも言えるのではないだろうか。つまり、他人の技術を積極的に研究し自分のものとしたように、自分が求めた母性を追求した結果、例えば「優しさ」といったものに結びついた。言い換えれば、単に母親の面影を追ったというより、母親という存在が持っているものを哲学的に定義づけられたからこそ万人に受け入れられる表情が描けたのではないかと思う。
カウパーの聖母子

ところで左の絵は「大公の聖母」より少し後に描かれたものだが、女性が赤い服を着ていなければ聖母子とはわからない。以後描かれる絵も日常の中に聖母子がいる姿であるが、これらを見た後で「大公の聖母」を見ると、様式に基づいた表現でありながらいかにその優しさや慈悲のようなものが表れているかが感じられるだろう。

むしろ背景がなく、着ているものもポーズも様式に基づいているからこそ、マリアとイエスの表情がはっきりと感じられるように思われる。それでも以後「カウパーの聖母子」のような日常の中にある聖母子が描かれていったのは、その親近感が好まれたのかもしれない。

余談だが、「大公の聖母」の名前の由来は、1799年にロレーヌ家のフェルナンド3世大公が購入し、旅行中も手元から離さないほど大切にしたからだそうだ。









関連リンク

Art cyclopedia-Raffaello
リンクをたどってさまざまな作品を鑑賞してほしい。「アテネの学堂」などの壁画装飾を見ると、優しさだけではないラファエロの違った面が感じられるはずだ。
美の巨人たち(テレビ東京)
番組の内容を紹介している。ラファエロの作品は「大公の聖母」の他「ラ・フォルナリーナ」なども取り上げられている。

"Madonna del Granduca",
1505,oil on wood,84x55 cm
Galleria Palatina(Palazzo Pitti), Florence.

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