ジャン・フランソワ・ミレー「星空」(1851年)
Jean-François Millet (French, 1814–1875) "Starry night"(Nuit Étoilée)
ニューヘイヴン(USA)、エール大学蔵

2002年の春に私は転勤となり、新しい職場で現場に出る機会が増えた。
地元の方々とよく話をするのだが、どうも会話がかみ合わないことがある。うまく言えないのだが、感覚というか、ものの感じ方が微妙に違うらしい。時に全く予想外の反応があったりして、「なんでそんな風に受け止めてしまうのかな」と思わされることもあった。違うというだけなら「そういう考えもあるかも」ということですむのだが、どう違うかがわからないというのは何か不安になる。
しかも、それが自分の育った場所からそれほど遠くない場所でのできごとである。相手の感覚はつかめないし、自分が間違っているのか、どこが間違っているのか、どうすればよいのかも皆目分からず頭を抱えてしまったのだった。
そんな体験があったので、NHK人間講座の「美は時を越える」というテキストを見たときは自然に手に取っていた。

すべての人における共通認識というものはあるのだろうか。世界を見れば人がそれぞれの正義を掲げて戦争を起こし、卑近な例を示せば私の感じた常識の違いがある。それに対し、「美は時を越える」の講師を務めた千住博さんは、自らの経験を通じて「美はすべてを超えて大切なメッセージを発信し続けている」と語っている。全8回の放送はいずれも興味深く、なるほどと思うことも何度もあった。

その最後に紹介されたのがこのミレーの「星空」である。いつとも知れない或る夜に輝く星々。おそらく百万年前も、千年前も、一年前も、そして昨夜もそうして輝いていたのではないだろうか。宇宙の空間と時間の大きさを考えると、自分の言う「違い」とはどれほど些細なものだろう。自分の持つ物差しが小さいだけのことではないのか。もっと大きな物差し・・・そのひとつが「美」かもしれない。さまざまな考え方や受け止め方がある一方で、人間の根底にある感受性はつながっていると信じたい。単に孤独を恐れているだけかもしれないが、人は独りでは生きられない。互いに理解し共存する、そのためには信頼関係が必要で、それには相手もまた自分と同じ人間であると思えることが前提ではないだろうか。美しいと感じる心、生命の尊さ、人の心や痛みを思いやる想像力・・・美が伝えるそれらを私も感じ、またそれを人に伝えていきたい。

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関連リンク
千住博ウェブサイト
エール大学による紹介
YALE UNIVERSITY ART GALLERY

"Starry night"(Nuit Étoilée)
 1851, Oil on canvas,65.4x81.3cm
Yale University,New Haven,Connecticut(USA).

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