ギュスターヴ=ドレ「曲芸師たち」(1874年)
Dore, Gustave
クレルモン=フェラン、ロジェ・キリオ美術館(旧クレルモン=フェラン美術館)蔵

致命的な怪我をしたのだろう、子供は既に血の気も失せ、母親はなすすべもなくその子を抱いている。男もただ見守るだけだ。さらに傍らのフクロウが子供の死を暗示しているようで不気味である。

ドレ(1832〜1883年)はフランスのアルザス地方ストラスブール出身で、主に版画による挿絵家として活躍した。
15歳でパリの風刺雑誌「ル・ジュルナル・プール・リール」と挿絵の契約を結んだのを始めとして1855年にはバルザックの道化師物語、ダンテの地獄篇(1861)、セルバンテスのドンキホーテ(1863)、ミルトンの失楽園(1865)そして聖書(1866)というように非常に多くの挿絵を版画で製作している。

このような挿絵を描くときの姿勢、つまり絵が少なくとも伝達手段としての役割を持つ中でどれだけ鑑賞者が想像力を働かせることができるようにするかということであるが、この点が画家の腕の見せ所であり、この絵にもそういった暗示や寓意が強く現れているような気がする。
私は画面左下に散らばるカードの中にスペードのエースを探し、それを見つけたとき画家と少しだけ通じ合えたような気がした。この絵を見たのは1996年頃の美術展と記憶している。当時は絵に興味を持ち始めた頃だったが、作者の趣旨が分からず「画家は何を思って絵を描いていたのだろう」といつも思いながら絵を見ていた。そのような中で少しでも理解できた絵だったので今でも強く印象に残っている。

ドレがこの絵を描いた動機はわからないが、1870年の普仏戦争で故郷がドイツに奪われたことも遠因かもしれない。
故郷を失った悲しみを描いた作品として、1871年に製作された「謎(Enigma)」(オルセー美術館蔵)がある。機会があればこの作品も紹介したい。

また、ドレの挿絵を鑑賞したい人のために以下のサイトを紹介しておく。
CGFA- Gustave Dore- Bible Gallery

関連リンク:
Musee d’Art Roger-Quilliot-Mairie de Clermont-Ferrand
ロジェ・キリオ美術館の案内。コレクションも見られる。英語・ポルトガル語のページあり。
Musee d'Art Roger-Quilliot(Roger-Quilliot Art Museum)
ロジェ・キリオ美術館ホームページ。フランス語のみ。

1874, Musee d'Art Roger-Quilliot(Roger-Quilliot Art Museum).
oil on canvas,224x184cm

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2008年10月18日:美術館の名称及びCGFAへのリンクを修正。関連リンク追加。


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